デンマークを理解するためのモデル
デンマークのデジタル社会を理解するためのモデルとして、「Society UX(社会のユーザー体験)」という考え方を紹介します。これは、デジタルサービスが広く定着した背景にあるフィードバックループを捉えるためのものであり、デンマークが他の分野でも高い評価を得ている理由を考える際にも役立ちます。
はじめに
デンマークは先進国です。実際に訪れてみるだけでも、それを示す要素が社会のあちこちに見つかります。さまざまな制度やサービスの存在、そしてそれらが広く普及していることです。
しかし、そうした仕組みやサービスへの需要と供給を実際に動かしているものは何か、という問いを忘れてはいけません。デンマークが世界で最もデジタル化された国の一つであるのは、歴史的要因と社会的なメカニズムが組み合わさり、相互に強化し合うポジティブなフィードバックループを生み出しているからです。そして、そのループが技術の進歩とともに、デンマークをさらに前へと押し進めています。
この文章では、私たちが考えるそのループの一部を紹介し、日本の企業や公共機関(省庁や自治体)がそこから何を学べるのかを考えていきます。
ランキングは方向性を示している
通常、ランキングはある主張を補強するために、その都度引用されることが多いものです。わかりやすい方法ですし、それ自体が間違っているわけではありません。ただ、そのやり方では、より大きな物語として捉えることの価値が見落とされがちです。
ここでは、デンマーク社会のさまざまな側面を語る際によく取り上げられるランキングと、それらがなぜ注目に値し、学ぶ対象となるのかを見てみましょう。
こうして並べてみると、全体として豊かで恵まれた国という印象を受けます。達成、成功、進歩といった空気があります。ですが、これらのランキングを別の順序で並べ替えてみると、因果関係を示唆するような物語が立ち上がってきます。
多くの人がデンマークのデジタル社会について語る際の問題は、デジタル社会があたかも最終到達点であるかのように語られることです。実際にはそれは、もっと重要な要素を支えるための基盤であることのほうが多いのです。ランキングはそれ自体が成果を示すものではありますが、それでも互いを指し示しています。
私自身、デンマークでの経験と、日本で10年間暮らしながら理論的・実践的に比較してきた中で、これらのランキングを組み合わせることで、「なぜこうなっているのか」という手がかりが得られるのではないかとずっと感じてきました。そしてそこから、学ぶべき原理のようなものも見えてくるかもしれません。
まず、幸福やウェルビーイングといった社会的な成果は、社会の他の要素に支えられているという前提から出発します。これにより、人間そのものに焦点が当たります。デンマーク人が本質的に他国の人々より幸福だというわけではありません。これは重要な前提です。なぜなら、どの社会にもよりよい社会的成果を実現する可能性があることを認めることになるからです。
次に、社会的な指標は私たちの働き方と関係しています。働き方は、自分自身や家族の幸福に直接影響します。そしてその働き方は、デジタルサービスによっても左右されます。デジタル関連のランキングは、この点で私たちがどれほど優れているかを示しています。インフラやサービスの整備状況だけでなく、それらが実際にどれだけ活用されているかも含めてです。
さらにその下には、教育、歴史、文化といった「大きな無形要素」があります。もちろんこれらも重要ですが、他国から何を学ぶべきかを考える際に、すぐに行動に移せるものではありません。
こうして、人間中心の構造が見えてきます。幸福やウェルビーイングといった人間の体験を最上位に置く構造です。デジタル化された現実は、それ自体を目的地として見るのではなく、何かを可能にするもの、そしてまた何かによって可能にされるものとして見るべきです。ここにフィードバックループがあります。
デジタルサービスは、よりよい働き方を可能にし、その結果としてよりよい社会的成果にもつながります。そしてデジタルサービス自体も、文化的な土壌と、仕事や社会の層から生じる「引っ張る力」の両方によって生まれます。この引っ張る力とは、デジタルサービスが人々を幸福にしたのではなく、むしろ幸福な暮らしへの期待が、日常の問題を解決する優れたデジタル手段を必要不可欠なものにしていった、という私の考えです。
体感される価値こそがループを動かす
では、そうした生活への期待がデジタル化を促したという前提を踏まえたうえで、その動きを持続させているものを見てみましょう。
デジタルな解決策へ向かう最初の推進力が十分に働き、環境が整ったとき、フィードバックループはデジタルサービスの開始とともに動き始めます。
サービスがよくできていれば、人はそれを使う中で価値を実感します。その価値の形はさまざまですが、根本的には、デジタルサービスは人が必要としていることをきちんと実行できなければなりません。人がその価値を実感すると、そのサービスを信頼するだけでなく、それを提供する主体――政府であれ民間企業であれ――が今後も同様のサービスを提供できる存在だと信頼するようになります。そして最終的には、「物事はオンラインでできて当然」「セルフサービス機能があって当然」「簡単であるべき」といった期待へとつながっていきます。
一方で、特に公共部門では、人々がそのサービスを使うかどうかを選べないことがよくあります。デジタルであれそうでなかれ、使わざるを得ないことが多いのです。そのため、設計や調達に関わる人たちが、「競合がないのだから、最低限動く程度のものでもいい」と考えてしまうことがあります。
しかし、ここでいう体験ループのモデルは、それがネガティブなフィードバックループであることを説明してくれます。
人々がそのサービスから価値をほとんど感じられなければ、そのサービスにも、政府がまともなものをつくる能力にも信頼を持てず、結果としてサービス水準への期待も低くなっていきます。
デンマークでは、このフィードバックループは圧倒的にポジティブな方向に働いています。そして、訪問者がデンマーク社会に触れると、それが自然な状態であるかのように見えるかもしれません。ですが、私はそうは思いません。デンマークのデジタルソリューションは、福祉社会を支え、そこで人々が仕事や生活に抱く期待に応える必要性から生まれたものです。そして、それらのソリューションが概してよくできているのは、有用で使いやすくなければ価値を生まず、その価値がなければ将来のデジタル革新の前提となる信頼も築けない、という理解があるからです。
デザイン(サービス、プロダクト、グラフィック、UX)は、デンマークらしい体験をつくるうえで大きな役割を果たしています。ですが、このループの理解がなければ、外から見る人には「デンマークのデジタルサービスは、どういうわけかありがたいことにかなりよくデザインされている」と映るかもしれません。私はそうは考えていません。ソリューションの質や実装の背景には、それに対する個人的・社会的な期待があるのだと思います。そしてその期待に応えようとする意識的な努力こそが、このループの一部なのです。実際、いまでは自治体の管理職ですら、新しい施策やサービスの「ユーザー体験」を真剣に考えるべきものとして語っています。過去20年のあいだにこのループを何度も繰り返してきた結果、その物語――すなわち期待が表れる一つの形――が、社会のさまざまな場所に根づいてきたのです。これこそが、このフィードバックループの力です。
ここで二つの点を強調したいと思います。第一に、デジタルソリューションは、ただ存在するだけでは不十分であり、良いものでなければならないということ。第二に、デジタルソリューションは真空の中で生まれるものではなく、信頼への影響を意識しながら設計・運用されるべきだということです。
結論
Society UXは、社会を理解するための枠組みであり、これから先の議論や分析のためのレンズとして使うことができます。
このようなモデルでデンマークを理解できるようになると、それを足がかりにして、関連するあらゆるテーマを掘り下げることができます。たとえば働き方、人材育成、デザインといったテーマも、このモデルを通して位置づけ、各層のあいだにどのようなつながりがあるのかを見ることで分析できます。
そしておそらくそれ以上に重要なのは、日本のような他国とデンマークを比較するためにもこのモデルを使えるということです。そうすることで、よりよい成果を実現するために何を改善できるのかを、より明確に言葉にできるようになるのです。